オープン・イノベーションとバイオ

最近、知財関連のセミナーに参加した中で、興味深かった話題を一つ。

オープン・イノベーション、正確な定義は難しいのですが、
「研究開発を自社のみに閉じたシステムで行うのではなく、
ベンチャーや大学など外部の技術を活用して行うシステム」
といった感じです。社内に閉じこもらず、まわりとも協力しながら進めようぜって話ですね。

今のところ、バイオ関連産業というと製薬が主体だと思いますが、一つの薬が出来るまでにかかる費用、労力が桁違いに大きいため、特許として強力に保護しないと元が取れません。
製薬以外のバイオ分野でも、生き物という偶発性に満ちた系を相手にしているため、はっきりしたデータを得るには膨大な失敗の連続なのが普通。
よって、出た成果を特許等で保護するのはバイオ分野において必要なシステムだと思います。

だから、バイオはオープンソースみたいにどんどんgiveすることで活性化する開発手法には向かないのかな、でもそれが閉塞感を生んでいる気がしてちょっと残念。という思いがあったのですが、オープン・イノベーションの考え方では知的財産の保護と公開のバランスをうまく調節することを推進しているようです。
他社の知的財産権の導入(ライセンス・イン)と他社への知的財産権の供与(ライセンス・アウト)をバランスよく行うことで、出せるものはうまく共有してお互いに利益を出す関係が生まれるという考え方ですね。


具体例としては以下のようなものがあるようです

エコ・パテントコモンズ

WBCSD (The World Business Council for Sustainable Development : 持続可能な開発のための世界経済人会議)が
2008年1月14日に立ち上げた、環境保全に役立つ技術をオープンに共有して利用するイニシアチブ(『協議』みたいなニュアンスでしょうか?)。
IBM, Nokia, Pitney Bowes, Sonyが協力しているようです。
エコに貢献できる技術をうまく共有して、協力した会社のビジネスや企業イメージ向上にも役立つと
好循環が生まれそうですね。

以下のサイトで紹介されており、真ん中へんの
HOW TO: Eco-Patent Commons Q & A
のJapaneseを選ぶと日本語のQ&Aが見れて、概要をつかみやすいと思います。
http://www.wbcsd.org/templates/TemplateWBCSD5/layout.asp?type=p&MenuId=MTQ3NQ&doOpen=1&ClickMenu=LeftMenu

PIPRA

Public Intellectual Property Resource for Agricultureの略。
公式HPは http://www.pipra.org/index.en.html
アグリバイオ関連技術の研究開発を特許の存在に妨げられることなく行えるようにする目的で設立された機関で、途上国の食料事情の改善を目標に、UC Davisがホスト機関となって2004年にスタートしたようです。
アグリバイオ関連の特許や、植物新品種*1の権利が対象で、改良された作物や基盤技術、細菌などが入るようです。

農業関連の技術は国の研究所など公的機関が保有している割合が高いことが、このような機構が成立しやすかった原因となっているようです。
ただ、SARSに関するパテントプール*2を成立させようとする動きなど、
医療分野の例も出てきているようで、今後期待がもたれます。

また、PIPRAのヨーロッパ版のようなものとしてEPIPAGRIという機関も最近できたようです。
途上国支援が大目標のPIPRAよりも、やや商品化など産業分野に力を入れているようです。

私も一応は植物が専門なので、このあたりの動きについてはもっと勉強しないといかんなあと思いました・・。

バイオ業界はポスドク問題や産業としての伸び悩みなど暗い話題が多いですが、こういった外部との交流を含めたシステムを導入することで活性化につながるといいですね。

*1:ちなみに植物の新品種に関する権利は特許法ではなく種苗法の範囲で、日本でも管轄は特許庁ではなく農水省らしいです。

*2:複数の特許権保有者の間で結ばれる契約であり、複数の特許を互いにあるいは第三者にライセンスするためのもの。情報通信分野の成功例としてMPEG-2パテントプールが有名らしい。